「預金が貯まったから、借入金を繰上げて返そうかと思ったけど、
借入金は相続税の節税になるんだよね?だったら、このまま返さずに借入として残して
おいた方がいいのかな?」
ご相談者の方々との会話の中で、頻繁に話題に上る話です。借入は相続税の節税になる…このコラムをお読み頂いている方の中にも、その通りと考えていらっしゃる方、少なくないのではないでしょうか。
しかし、残念ながら、借入金は節税対策にはなりません。
「でも借入金は、相続財産から引けるのでは?」
確かに、借入金は課税対象額の計算の仕組みからもわかるように、葬式費用などと同じくマイナス財産です。節税の基本公式を見てもわかるように、借入金は控除するグループに入っていますので、この公式からすると、“②控除額を増やす”対策の一つとなりそうです。(コラム『節税の基本公式』参照)
ところが、基本公式のプラスの側から見ると、借入金は節税対策にはならないことが分かります。
プラスの側とは、「プラス財産の減少」です。借入金は、現金あるいは預金から出金して返済するイコール現金・預金が減ることなのです。借入金返済は、節税の基本公式で言うところの“①プラス財産を減らす”ことを意味します。
具体例を見ていきましょう。
①【Aさんの現在の資産】 ・プラス財産(預金8,000万円) ・マイナス財産(借入金1,000万円) ・課税対象額=8,000万円-1,000万円=7,000万円 |
◁ 借入金1,000万円を全額返済したとすると…
②【Aさんの返済後の資産】 ・プラス財産(預金7,000万円) ・マイナス財産(借入金0円) ・課税対象額=7,000万円-0円=7,000万円 |
いかがでしょうか?借入金を残しても(上記①の状態)、返済しても(上記②状態)、算出される課税対象額に影響は全くない(課税対象額は①②共に7,000万円で同じ)ことがお分かりいただけると思います。このように、借入金を敢えて残すことは、節税対策にはなりません。あくまでも繰上げ返済は、返済した場合に我が家の家計が苦しくならないかという、ライフマネープランのバランスを考えて実行されると良いでしょう。
ここで、借入金の繰上げ返済については、もう一つ検討事項があります。あなたが不動産経営をされている場合、その借入金が不動産所得に関わるものであるとすれば、返済によって経費に計上できる支払利息がなくなる可能性があります。所得税との有利不利のバランスも考慮することが必要です。
なお、住宅ローンについては、団体信用生命保険(団信)付きローンである場合は(民間金融機関はほとんどが団体信用生命保険の加入をローン条件としています)、債務者が亡くなった場合、団信が債務者の代わりに、死亡保険金という形で銀行に返済するため、住宅ローンは消滅します。
「自宅の家・土地については住宅ローンがあるから、相続財産としてはプラスマイナス0円でしょ?」
とはなりませんので、くれぐれもご注意を…。